六日目C:違和感

 

 人生は一冊の書物のようなものだ、と言ったのは誰だったか。

 しかも、その書物はこの世界で頒布されている書物よりも遥かに奇妙なものらしい。

事実は小説より奇なり。

 つい六日前、こんな事態に巻き込まれるなど僕は想像もしていなかったし、そんな兆しなど全く

なかったように思う。

 否、今までの人生を丹念に分析できていたなら、或いは予測出来たことなのかもしれないけれど、

現時点では僕の人生は僕にとっては売り物にも何にもならない落丁本なわけだし、万一記憶という

名のページが完全に揃っていたとしても、僕自身がどうしようもなく愚者である以上、ペラペラとその

本を徒にめくって時間を無駄にするに留まることだろうから、いかんともしがたい。

 結局、僕は闇の中を手探りで進んでいくしかないのだろう。

 我が行く道に灯火無く茨多し。されど、この外には道なし。

 

 

斯くして夕刻。

件の病院に白川氏と朱莉をとりあえず隔離、とばかりにぶちこんで既に数時間。

――未だ、《ドッペルゲンガー》は動かない。

ちなみに、朱莉と白川氏、それぞれの家族には“魔女”があっさり話を付けたらしく、大した苦労も

なかったようだ。

“魔女”の説得能力に感心するべきか、両者の家族の無関心っぷりを嘆くべきか。

現代の家族に潜んだ病理とやらに思いを馳せてみたり。

 

「……お疲れ様です」

「いえいえ、こちらこそ」

 

張り込んでいる病室前――ちなみに、一昨日襲撃を受けた403号とは違い、B棟と呼ばれる

病棟の501号に朱莉と白川は移動している――で、出てきた緑沢さんと儀礼的に礼を交わす。

偽ナースの制服指定が解除されたおかげで、羞恥プレイ感はかなり薄れてはいるけれど……

やはり、後ろめたい気持ちが無いと言えば嘘になる。

「……周君も、会長も大変ですね……」

「まぁ、いいんじゃない? 普段は精霊の力で好き勝手やってるんだから。どうせ、人目がなくなった

のをいいことによろしくやってるでしょ」

緑沢さんはそれでも申し訳なさそうに病室の扉に目をやる。

――あの二人のことは、はっきり言って気にするだけ脳の処理能力の無駄だと思うんだけど。

そこで割り切れない所がまた善人と言うべきか。

まあ、これ以上あの傍若無人二人のことを話に出しても面白いわけでもなし。万一中に聞こえて

いたら、後で緑沢さんが可哀想な目に遭うことになりかねない。

何より、過度にその話題に触れて病室内の連中すら知らないこちらの本当の狙いが露見しても

事だ……ここはこの程度で放置するのが最良か。

「周君、か。随分彼と親しいみたいだね……友達は選んだ方がいいと思うけど?」

「え!? あ、そ、それはですね……」

急に挙動不審になる緑沢さん。照れているのだろうか、若干頬が赤い。

「親しいって言うか……幼馴染なんです。かれこれもう……10年以上の付き合いになりますね。

幼稚園より前からですし」

なるほど。一昨日、白川氏が妙に動揺していたのはそのせいもあったのか。

確かに……十年以上仲良くやってきた幼馴染となれば、妙な誤解をされるのは避けたいところ

だろうけど。それにしても……。

「上手くいってる幼馴染って実在したんだ」

大抵の場合、このくらいの年代だと互いに距離を置きがちだとよく聞くけれど、案外仲良くやれる

ものだったらしい。

しかし、なるほど。片山朱莉と緑沢清奈。二人揃えておいておけば、日本男子の八割は少なくとも

どちらかになびくであろうと思われるほど対極な美少女二人を囲っていると。

あの覗き魔は。覗き魔のくせに。覗き魔の分際で。

何故だろう、ちょびっと暗黒面のフォースに染まりそうな気がしてきた。

むしろ、このまま朱莉襲われるなり何なりして慟哭すればいいんじゃないか?

ちょっと報いが必要だな……事が終わった後で"魔女"辺りに相談してみよう。きっとノリノリで

陥れてくれることだろう。恵まれすぎた野郎には制裁を、ってことで。

「あのー、どうしたんですか? 黙っちゃって」

「……ごめん。格差社会について本気出して考えてみてた」

僕の適当な返答に、なるほどー? と首をかしげる緑沢さん。

逐一邪気の無い反応だ。これが朱莉相手だったら罵倒されるか枕が飛ぶか。下手をすれば銃弾

が飛んでくることだろう。突っ込みで。

というか……あまりにも邪気が無さ過ぎてやりづらいほどだ。

一緒に居て安らぐ分にはいいけど、話して場を持たせようとすると厳しい相手という感じか。

……と考えてる間にも再び沈黙が。

うーむ、気まずい。何かとにかく言おう。何か……

「しかし、白川君も見る目が無いね。普通、君みたいな良く出来た幼馴染が居るならあんな攻撃的な

イロモノに飛びつかないと思うけど……何? 彼ってドM?」

……さっきヤツの話題は出さないと決めたはずじゃなかったのか僕。

十分持たずに決断撤回ですか僕。

見れば、緑沢さんの顔も若干引きつっている……これは地雷を踏んだかもしれない

「……そうですね。周君、昔から変わったものが好きでしたから。イカスミパスタとか、毛虫とか」

「毛虫、か……」

……まあ、たしかに毒もあればトゲもある。凄い端的な比喩だけれど。

哀れ、朱莉≒毛虫認定。

緑沢さんも遅れてその発言の深刻さに気付いたか、目を伏せてぼそぼそとつぶやく。

「あ、いえ。別に会長が毛虫だとかそういうわけではなくて、その……ただ、周君が昔好きだったって

いう、それだけで」

「……いや、僕が邪推しすぎでした。気にしないで下さい」

これが朱莉の発言だったら他意を疑う所だけど……いや、まあ少しばかりの他意はあるのかも

しれないが。

考えてみれば、10年以上仲良くやってきた幼馴染を横から掻っ攫われた形になるわけで。

むしろ、朱莉や白川と仲良く生徒会やってる方がおかしい、と言えばおかしいのだろうか。

「……正直、あの会長に従って生徒会やってくの嫌じゃない?」

僕の突っ込んだ問いに、緑沢さんは首を振る。

「いえ。やっぱり会長は私なんかじゃとても敵わない凄い人ですし……尊敬してます。私に出来ない

ことを軽々とやってのけますから。それに……家じゃ「精霊を使えない役立たず」って言われてた

私を周君は助けてくれたんで、周君の役に立てるなら……頑張りたいと思ったんです」

「……なるほど」

何かおかしいような気がするけれど、流石に邪推が過ぎるか。

これ以上不躾な思考を走らせては、白川と同レベルに堕ちかねない。

「役に立つって言っても多少情報集めたり、ちょっとした差し入れを作ったりする程度なんですけど

……そうだ。そちらにも差し入れ持ってきたんですけど、いかがです?」

「……まじ?」

緑沢さんの手には、彼女の言葉が真実であることの証と言わんばかりの弁当箱が一箱。

なるほど、確かに家事が達者そうな感じはするが……まさかこんな得体の知れない大学生相手に

わざわざ差し入れを持ってきてくれるとは。

こんな気遣い、久々にしてもらった気がする……無頓着なヤツばっかりだからなあ。僕の周り。

「お箸は割り箸になっちゃいますけど……」

「……食器まで完備とな」

いつもどおり10秒チャージで済ませる予定が思わぬ収穫。

据え膳食わぬは漢の恥……いや、今の僕は女だけど。

 

かくて、緑沢さんが申し訳なさそうに去った後には満腹でふぅ、と息をつく弁当完食者が一人。

……仕方ないじゃない。美味しかったんだもの

と、そんなつかの間の幸福感を完膚なきまでに叩いて砕いて蹴散らすような険しい声が後ろから

響いた。

「地上四階から落ちた翌日に元気に弁当ぱくついてるたぁ、相変わらず度し難いバケモノですのね」

――なるほど。緑沢さんの癒しタイムのツケがいよいよ回ってきたらしい。廊下の残り香で弁当と

判別するとは、嗅覚も鋭くていらっしゃる。多分、彼氏の浮気にも速攻で対応できるね。

「……火を吹く銃を振り回してたバケモノにだけは言われたくないと思うんだけど」

振り向いてみると。案の定其処には癒しとはかけ離れた人物が一名。

さきほど毛虫認定された片山 朱莉が其処にいた。

……なるほど、毒もあってトゲもある。おまけに見ただけで不快になれるときた……使えば使う

ほど味わい深い比喩だ。侮りがたし、緑沢清奈――まあ、いきなり物が飛んでこない辺り、さっきの緑沢さんのうっかり発言は聞こえていなかったようだが。コレは、紛れもない幸運か。

「それにしても、貴女料理とか出来ましたのね。極めて著しく意外ですの」

「ああ、これはお前んとこの緑沢さんが作ってきてくれたの。僕は料理……出来ないこともないけど」

……まあ、たまにやろうと考えた結果が部屋の冷蔵庫なあたり、推して知るべし。むしろ聞くな。

朱莉もなるほど、と頷く。

「そうでしたの。緑沢先輩が……おおむね、何でも器用にこなせる彼女は羨ましいですの。一応

料理はやりますけど、こっちは必要最低限ですし」

「……料理、出来るって? 誰が?」

「その失礼な表情で何をいいたいのかは解りますけれど。一応和洋中その他、レシピが有れば

大抵は何とかなりますの」

出来るのか。何か、こいつの場合平然と白川氏の家に押しかけて飯を作らせてそうなイメージが

あったんだけど……ん? 何か今の流れ、引っかかるところがあったような。

「……緑沢、先輩?」

「はい。あの人、私達の一つ上ですの」

へぇ、なるほど。先輩なのか。確かこの貧相な生徒会長が高2だから、緑沢さんは高3……

なるほど、朱莉達より大人びていても全く不思議じゃない。むしろ自然、か。

……あれ?

「何であっちの方が年上なのにお前が会長やってるんだ?」

まあ、払拭されつつあるとは言え……現代社会はまだまだ年功序列が横行する僕ら若者に優しく

ない構造なわけで。

とりわけ、学生時代の一年差ってのは、その後の三年差よりも遥かに重みがあるもののはずなん

だけど……

「あー……あの人は先代の生徒会からの据置きなんですの。貴女もご存知の魔女さんが入り浸って

いた頃の」

「……なるほど。お前の先代ね……どんな奇人変人だったやら」

「……」

あ、思い出したくもなさそうに目を逸らした。

「凛墺寺、という方だったんですけれど」

「……わお」

凛墺寺(りんのうじ)。まあ、この国に住んでいる人間の八割、不勉強な若者でも半数が名前くらい

は知っているであろう…名実共に、現代の貴族として君臨する名前。

古くは公家大名の時代から、以後は華族という名前になってからも、近代化に乗じて財を成し、

60年少し前の大戦争でも、どこをどーかい潜ったか難も没落も逃れて今に至るという、筋金入りの

お貴族様である。

まあ、こんな地方都市の一高校に進学している辺り、恐らく直系じゃあないのだろうけど。

「……なるほど。後継がお前になるわけだ」

「どういう意味ですの?」

いや、だって何か……ねえ?

何か、無駄に偉そうな所は本物の貴族以上にお貴族サマっぽいし。

「別に、私は先代に好かれて生徒会長になったわけではありませんの」

「まあ、好かれてなって即彼氏作ったらそりゃ背信だよnぎゃ」

発言終了前に鳩尾に手刀を深々と突き入れられました。枕選挙じゃなかったようだ。

悶絶する僕を他所に、朱莉は続ける。

「むしろ、先代が気に入っていたのは緑沢先輩の方ですの。まあ、分からないでもないですけど」

「……確かにねぇ」

家事万能、母性的、控えめ、ルックスも上々。

そりゃ、マトモな男なら放って置かないだろう。白川氏みたいな一部のゲテモノマニアを除いては。

「さしずめ、先代の人が後継に推したけどお前のために身を引いてくれたって所か」

「私も詳しい所は知りませんけれど……あの人の性格から考えて、そんなところだと思いますの」

おそらくは……面と向かってぶつかり合うことで、その後自分と朱莉とが上手くいかなくなるのを

防ぐ為に。

そして恐らく。同じように、白川氏も手放したんだろう……。まあ、手放して朱莉に預けるのって

物凄く心配だろうけど、その心配すらも飲み込んで。あの控えめな笑顔のまま、白川氏を送り出した

のだろう。

「いい先輩じゃん。もう少し大事にすれば? 少なくともこの前の病院とか今日の昼間とか……

緑沢さんの方が年上とは思えないぞんざいな扱いっぷりだったし」

朱莉は僕の苦言に肩をすくめ……多少は思い至るのか、少し苦みを含んだ表情で呟いた。

「…一応、感謝はしていますの。色々とお任せしてますし」

一応、らしい。この埒外にその辺の気配りとか気遣いを要求する方が無理難題だったか、とも

思うが…それこそ一応は、感謝の念も無いわけでは無いらしい。驚くべき事に。

 しかし、その苦味を含んだ表情は、感謝だけを示した表情とはとても思えないのもまた、事実。

 ――この毒舌だけで構成された女にしては珍しいことなのだろうが。

「……ひょっとして、緑沢さんのこと苦手だったりする?」

「別に苦手ってわけでは……ただ、まだ狂精霊とかの方がお相手はし易いですの。悪い人じゃ

ないんですけれど、ね」

 なるほど……確かに相性悪そうではある。どんなに苛烈な言葉で突きかかっても、至極丁寧な

受け応えで受け流されそうだし。正面からぶつかり合ってくれず、争いを避ける方にばかり動く分、

やりづらい相手ではあるんだろう。

 しかし。言うに事欠いて怪獣とかそこら辺と同等の代物と比べるとは。狂精霊って、確か狂った

精霊が具現化したものだったような……無論、言葉など通じる筈も無い正真正銘のマガモノだとか。

 まあ、確かに敵か味方か白黒はっきりしてる分、直情的なこの娘としては「まだ」マシな部類の

相手なのかもしれないけれど……片や毛虫扱い。片や怪獣扱い。

 本人に聞かせたら激怒しかねないあだ名を双方から聞いてしまっても、僕としてはどうすることも

出来ないんだけどねえ。

 一枚岩に見えた連中も、ちょっと関わってみるだけで色々と人間関係の軋みが見えてくるもの

だね、と一人納得しておこう。

「何ですの? 一人で頷いて。気持ち悪いですの。いえ、キモいですの」

「それ、言い直すほど違いがあるのか?」

僕にはわからない領域だ。その辺りの匙加減。

「気分の問題ですの。それより、“精霊喰らい”の件はどうなっていますの?」

「さぁ、ね……僕のところには何もきてないけど」

 ――世間話で油断しかかった所にこれだ。もう少し世間話が続いて気が緩んでいたら、何か

致命的な一言を発してしまっていたかもしれない。

 ……病院に押し込められていても、舐めてかかると危険な敵、ということか。

 ――これが、朱莉と白川氏を囮にした我慢比べだということだけは気付かれてはならないのだ。

 万一気付かれて、朱莉に脱走でもされれば……それがいかなる意図によるものであれ、僕達の

目論見は崩れ去ることになるのだから。

「ふぅん……まあ、被害が出ていないのはいいことですの」

 幸い、こちらの思惑に気付かなかったか……朱莉は僕の傍から離れ、白川氏の待つ病室へと

向かう。

……中々、心臓によろしくない会話だった。

 出来れば、朱莉と白川氏が本格的に不信感を抱く前に動いてもらいたいものだが……と、一人

廊下で嘆息する。

 しかし、こればかりは《ドッペルゲンガー》側の気分次第。向こうがこちらの意図に気付いて敢えて

動かなければ――

「動かなければ……まぁ、向こうの負けだぁね。どっちにしろ」

「うぉ!?」

 唐突に響いた声に驚いて見てみると。何故かナース服に身を包んだ“魔女”がにやにや笑って

廊下のベンチに足を組んで座っていた。……しかも、悔しいことに僕より似合ってやがる。

「“魔女”、あんた前に僕にテレパスとかは専門じゃないって言ってなかったか?」

「この状況で、そんなに眉間に皺寄せて考え込んでりゃ、誰にでも何考えてるか分かるっての。

 それ、夕飯の献立悩んでたり、合コンの返事どーするか考えてる顔じゃないって」

 そういうものか? と廊下の窓に顔を映してみる。

 ただでさえ見るだけで罪悪感をそそられる顔が、眉間に皴を寄せていた。

なるほど、これはひどい。

 この顔に。あいつの顔にそんな表情を貼り付けていたかと思うと、湧いてきた罪悪感が止まらなく

なりそうになったので、眉間を揉み解して皴を取ろうと試みてみる。少し、気分が楽になった。

「よくわかったよ……で。負け、というと?」

「まあ、動かないならその内蓮田ちゃんが帰ってきちゃって手詰まりだから、いずれ動くしかない

わけだけど……ちょっくらあたしも色々と仕込みを重ねててね? 手持ちのコネで残っている

精霊使い以外の通常戦力をありったけこっちに寄越す手筈がついてさ。早い人は、あと何時間か

でこの街に到着するかな?」

「……さすが。手回しが早いね」

「まあ、確実にやれる、となれば声もかけやすいしね。いつ、何処に出るかもわからない相手を

どうにかして、って言って快く引き受けてくれる人なんてそうは居ないけど……何処に出るかが

分かっているなら、引き受ける物好きもそれなりにはいるものさ」

 ――なるほど、今まで使えなかった戦力が算定可能になったと。しかも、恐らく“ドッペルゲンガー”

に対して打撃を与えうる、精霊使い以外の戦力が。

 これは大きな進展だ。これで、益々僕らの優位は確定する。

「とはいえ、計算外の事態も起きうるのは分かってると思うけど……まあ、其処は」

「現場の判断でどうにかするよ。そのための僕だ」

 この優位は決して磐石ではない。どのような要因で崩れるかも分かったもんじゃない。

 だからこそ、最後の最後まで気は抜けないのだ、という事実を改めて認識する。

 

 ――だが、僕はその数時間後。

 その認識すらも、未だ生ぬるいものであったことを痛感することになる。

 

 深夜。

病院の外で野宿を強いられつつ――状況が、遂に急変したということを僕は知ることになった。

「……それは、冗談にしてはタチが悪過ぎないか?」

「ああ。してやられたよ。こんな手があったとはね……あたしも流石にきっついわ」

 電話の向こうから聞こえる“魔女”の声は、僕が今まで聞いた中で最も苦みを帯びていた。

「狂精霊の並行同時召喚……いやぁ、コレは確かに奥の手だわ」

 苦笑いを浮かべようとして、引きつったかすれ声にしかならなかった、そんな風情の音が電話の

向こうから響く。

「分かっているだけで7箇所……市街地にバラバラに現れてる。そこから離れた場所ばかりだから

ほぼ間違いなく陽動だけど、今までの《ドッペルゲンガー》の活動のせいで手が足りない……

あたし本人とさっき着いた幾許かの戦力、それと白川君を回しても、かなりギリギリだね」

 どうやら、その存在を予測されていた相手側の切り札は。

 僕らの予測を遥かに超えた範囲と、衝撃を持って襲い掛かってくるに至ったようだ。

「なるほど、今までの行動でこちらが使える駒を削ぎ落として、一気に勝負をかけてきたってところか

……やってくれる」

 

腕時計を見ると、奇しくも短針と長針は揃って文字盤の「12」を指していた。

この一週間を締めくくる最後の一日の幕は――この時、切って落とされていたのだ。

 

 

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